NA/NBロードスター「悪魔のアンダーカバーボルト」完全攻略ガイド

愛車のロードスターのメンテナンス中、レンチを回した瞬間に手に伝わる「ヌルッ」という嫌な感触、そしてそれに続く「パキッ」という乾いた音……。 経験者なら誰もが背筋を凍らせる瞬間です。そう、アンダーカバーを固定しているボルトの破断です。

「たかがボルト一本」と甘く見てはいけません。このボルトはフレーム内部の特殊なナットに固定されており、折れるとリカバリーが非常に厄介なことで世界的に有名なのです。

この記事では、世界中のロードスターオーナーを悩ませるこのトラブルの原因から、折れてしまった時の対処法を分かりやすく解説します。


1. なぜ、このボルトばかりが折れるのか?

NA/NBロードスターのオーナーにとって、これはある種の「通過儀礼」と言えるかもしれません。実はこれ、あなたの腕が悪いのではなく、構造的な宿命なのです。

フレーム内部の「隠れた罠」

アンダーカバーを留めているボルトは、フレーム(サイドメンバー)の中に溶接された「キャプティブナット(固定ナット)」にねじ込まれています。 問題なのは、純正ボルトが少し長く設計されているため、ボルトの先端がナットを突き抜けてフレーム内部の空洞に飛び出している点です。

フレーム内部は水や泥、融雪剤が入り込みやすく、湿気がこもりやすい場所です。その結果、突き出たボルトの先端が強烈に錆びて膨張し、「キノコ状」に肥大化してしまいます。 この状態でボルトを緩めようとすると、肥大化したサビの塊がナットの裏側に引っかかり、強力なストッパーとなってボルトをねじ切ってしまうのです。

このボルトはM6 x 15 8強度のタッピングボルト、マツダ純正部品では 9078-60-616 スクリュー&ワッシャー タッピング です。モリシタのFTネジで、山が六角形に尖っていて、塗膜とスパッタを除去するために採用されています。


2. 世界共通の悲劇:「あ、折れた…」

このトラブルは日本だけのものではありません。世界中のフォーラムで同じ悲鳴が上がっています。

  • 日本: 「オイル交換のためにカバーを外そうとしたら折れた」という報告は後を絶ちません。
  • イギリス: 湿気が多いイギリスでは、「外そうとすれば必ず折れる」と言われるほど頻発しており、ボルトをねじ切った勢いでフレーム内のナット溶接まで剥がれてしまう「共回り」の報告も多数あります。   
  • アメリカ: 特に降雪地帯のオーナーたちは、このボルトを「悪夢」と呼び、ドリルで揉み取る作業についての議論が絶えません。

3. まずは「折らない」ための予防策

まだボルトが生きているなら、あなたはラッキーです。絶対に力任せに回してはいけません。

魔法の液体「ATF + アセトン」

市販の浸透潤滑剤(ラスペネなど)も良いですが、固着がひどい場合はATF(オートマフルード)とアセトンを1:1で混ぜた溶液が最強と言われています。これをフレームの水抜き穴などから注入し、ボルトの裏側(ネジ山部分)に直接届くようにして一晩放置してください。

前後回転法(Rocking Technique)

いきなり緩める方向に回し続けてはいけません。「緩める・締める」を小刻みに繰り返すことで、ネジ山のサビを粉砕しながら少しずつ排出させます。焦りは禁物です。


4. それでも折れてしまったら…リカバリー編

運悪く「パキッ」と逝ってしまっても、諦めるのはまだ早いです。状況に合わせた3つのリカバリー方法を紹介します。

レベル1:ボルトの頭が残っている場合

ボルトの軸が少しでも飛び出していれば、勝機はあります。

  • ナット溶接法: 残ったボルトに大きめのナットを被せ、内側を溶接して回す方法が最も確実です。熱衝撃でサビも浮くため一石二鳥です。
  • バイスプライヤー: ネジザウルスやバイスプライヤーでガッチリ掴んで回します。

レベル2:根元からポッキリ(埋没)している場合

最も多いパターンです。ドリルでボルトを切削します。このような状態ではエキストラクターが折損します。

  1. センターポンチ: 真ん中に窪みをつけます。これがズレるとフレーム側のネジ山を削ってしまいます。   
  2. 逆回転ドリル: 通常のドリルではなく、「逆回転(左回転)」のドリル刃を使います。削る力が「緩める方向」に働くため、運が良ければ削っている最中にボルトがクルッと抜けてきます。
  3. 段階的拡張: いきなり太いドリルを使わず、2.0mm → 3.5mm → 4.8mmと段階的に穴を広げます。M6の下穴径は約5.0mmであるため、4.8mmで止めておけば、ネジ山ギリギリの薄皮一枚の状態でボルト残骸を残せます。
  4. ピックアップ: 残ったネジ山のコイルを鋭利なピックツールで内側に剥がし取る。
  5. タップさらえ: 最後にM6×1.0のタップを通し、ネジ山を整える。

レベル3:最悪の事態「ナット脱落」

サビが酷すぎて、力をかけた瞬間にフレーム内部のナット溶接が剥がれ、空転してしまった場合。こうなると外からボルトを抜くことは不可能です。 この場合の最終手段は、「ナッター(リベットナット/ブラインドナット)」の出番です。 元の穴をドリルで大きく広げて(9mm程度)、新しいメスネジ(リベットナット)をカシメて固定します。これにより、純正同様の強固なネジ山が復活します。専用工具がなくても、ボルトとナットを使ってカシメる方法もあります。

※ 応急処置としてタイラップ(結束バンド)で留める人もいますが、振動で切れたりカバーがバタつく原因になるため、あくまで一時しのぎに留めましょう。


まとめ

NA/NBロードスターのアンダーカバーボルト破断は、避けては通れない道です。しかし、正しい知識と準備があれば、恐れることはありません。 もし折れてしまっても、それは愛車との絆を深める(そして工具が増える)良い機会だと捉えましょう。