トヨタ・ファンカーゴ──再評価される「隠れた名車」の現在

国内で希少化し、海外へ流出するファンカーゴ

1999年にデビューし約6年で35万台以上を売り上げたトヨタ・ファンカーゴは、当時小型トールワゴンとしてスマッシュヒットを記録しました。しかし2代目モデルは登場せず2005年に生産終了となり、現在では国内で台数が激減しています。中古市場に出回る車両もわずかで、2025年時点で国内掲載台数はわずか十数台程度と希少な存在です。こうした希少性ゆえに「隠れた名車」として再評価する声もあります。

一方、その希少なファンカーゴは海外で根強い人気と需要があり、多くが日本から輸出されています。ファンカーゴは初代ヴィッツ/プラッツと共通の1.3L・2NZ-FE型/1.5L・1NZ-FE型エンジンを搭載していますが、このエンジンが「とにかく壊れない」ことで有名で、日本でも「30万キロぐらいフツーに走る」と言われるほど耐久性があります。その頑丈さとメンテナンスの容易さから、過走行車や故障車であってもエンジンさえ無事なら海外では高値で取引される傾向があります。実際、初代ヴィッツ系(ヴィッツ/プラッツ/ファンカーゴ)の中古車は国内ではほとんど輸出されるという状況です。

ファンカーゴが海外で人気な理由は、その実用性と信頼性にあります。全長4m弱のコンパクトな車体ながら背高のワゴンボディで室内空間は抜群に広く、後席を倒せば自転車やバイクさえ積載可能なフラットなラゲッジを実現しました。貨物スペースが広いため商用から普段使いまで様々な用途に使える点に価値が見出され、海外では「安くて壊れない小型商用車」として重宝されているのです。日本国内では廃車寸前の個体でも、海外で人気が高いファンカーゴなら故障車・不動車でも買い取られるケースがあります。中古車買取業者が海外販売ルートを確立し、解体車から部品を輸出するほどで、エンジンやパーツ単体にも需要が高い現状です。

特にロシアやアフリカでの人気が顕著で、現地ではファンカーゴ(ロシア語名:Функарго)を見かける機会も多いようです。例えばロシアの中古車サイトには600台以上のファンカーゴの売買情報が掲載されておりauto.drom.ru、アフリカの東部諸国(タンザニアなど)でも400台超のファンカーゴの在庫が確認できるほど流通していますcars.tz.cari.africa。信頼性の高いトヨタ車で部品も手に入りやすいことから、ウガンダやタンザニアではタクシーや商用車として使われ続け、壊れたら修理しながら長期間乗り継がれているようです。このように、日本で役目を終えたファンカーゴが海外第二の人生を歩んでいるケースは非常に多く、国内では希少性が増す一方で海外では実用車として現役という状況になっています。

欧州では「ヤリス・ヴァーソ」として高評価を獲得

ファンカーゴはもともと欧州市場を意識して開発されたモデルでもあり、欧州では「トヨタ・ヤリス・ヴァーソ(Yaris Verso)」の車名で販売されました。欧州のユーザーからの評価も高く、発売当時イギリスのユーザー満足度調査ではヤリス・ヴァーソが第1位に輝いたとの記録があります。実際、イギリスの消費者誌による調査ではヤリス・ヴァーソのオーナーの92%が「友人にも勧めたい」と回答し、全車種中トップタイの評価を得たと報じられましたauto123.com。小型車ながら室内スペースと実用性に優れる点が欧州でも評価され、ホンダ・ジャズ(フィット)などと並び「ベストバイ」の一台に選ばれたほどです。

ヤリス・ヴァーソは欧州におけるスーパーミニMPV市場の先駆けであり、「そのクラスを定義づけたモデル」とも評されましたrac.co.uk。全長わずか約3.8mに収めながら4人分の居住空間と荷室を確保し、さらにはディーゼル仕様でリッター20km超の低燃費を実現するなど、紙の上では理想的なシティカーでしたslashgear.com。加えて抜群の信頼性と耐久性も特筆され、英国の中古車レビューでは「ヤリス・ヴァーソはとてもタフ(hardwearing)なクルマだ」と評されています。実際に「非常に信頼性が高く耐久性抜群」で、古い個体でも大きな故障なく走り続ける例が多いことが知られています。

デザイン面では地味・奇抜との評価もあり発売当時は大ヒットとまではいきませんでしたが、それでもオーナーの満足度は総じて高い傾向にありました。ヤリス・ヴァーソの独特な外観(丸みを帯びたフロントマスクや涙滴型のサイドウインドウ)は好き嫌いが分かれましたが、その実用本位のコンセプトは若年層からシニア層まで支持され、欧州各国で長く愛用するユーザーが見られます。欧州では生産終了後の後継としてトヨタ・ラクト(Verso-S)やプジョー・1007などが登場しましたが、ヤリス・ヴァーソほどコンパクトさとユーティリティを両立したモデルは多くなく、結果的に中古車市場ではニッチな人気車種となっています。例えばドイツでは2017年頃に1,000ユーロ前後でヤリス・ヴァーソが豊富に見つかり、駐車のしやすさと実用性から渡欧者の足車に選ばれるケースも報告されていますcurbsideclassic.com。このように、欧州においてもファンカーゴ/ヤリス・ヴァーソは「知る人ぞ知る優良中古車」として静かな人気を保っているのです。

2022年 ポルトガルにて撮影

耐久性とユニークな実用性が支持される理由

ファンカーゴが国内外で再評価され、「隠れた名車」と呼ばれるゆえんには、その抜群の耐久性ユニークな実用性があります。以下に主なポイントをまとめます。

  • 驚異的な耐久エンジン: 前述のとおり、搭載される1NZ-FE/2NZ-FEエンジンは故障知らずで有名です。「とにかく壊れない」エンジンとして海外でも評判が高く、オイル交換など基本整備さえ怠らなければ数十万キロに及ぶ長距離走行にも耐えます。耐久性が高いため海外では古い年式でも乗り続ける人が多く、部品取りエンジンとしても引く手あまたです。
  • 広大な室内空間とシートアレンジ: 全高を高くとった箱型ボディにより、コンパクトカーとは思えない広い室内空間を実現しています。後部座席は薄型のリトラクタブルシートで、床下へ簡単に収納してフルフラットの荷室を作ることが可能です(後期型では快適性重視の厚みあるシートに変更)。この機構により最大575リットル超の荷室容積を生み出し、自転車や大型荷物も楽に積載できます。当時として画期的なシートギミックと収納力は、現在見ても実用的で「代わりの効かない存在」と評価されています。
  • 福祉車両など独自の展開: ファンカーゴには車いすのまま乗車できるスロープ付き福祉車両も設定されていました。全長4m未満の乗用車でこのような本格的福祉改造車が用意された例は珍しく、当時は全国各地の狭い路地で介護移送や送迎用に活躍する姿が見られました。小柄なボディに大空間という特性は、高齢者や障がい者の移動にも適したユニークな強みでした。
  • シンプルな造りと信頼のトヨタ品質: スライドドアを持たない5ドアハッチという基本に忠実なレイアウトながら、その分機構がシンプルで車両重量も軽く、故障リスクが低い設計です。内装はハードプラ主体で「質素」とも評されましたが、裏を返せば堅牢で傷みにくく、「質実剛健で飽きの来ない相棒」として長年乗り続けるユーザーも多く存在します。トヨタ車らしいパーツ供給の安定性も相まって、維持費の安さと安心感は中古車ユーザーにとって大きな魅力です。

このような特徴に支えられ、ファンカーゴは発売から20年以上経た現在でも国内外で新たな価値を見出されています。「スライドドア無しでも35万台売れた謎のヒット車」とも形容されるファンカーゴですが、その陰には先進的かつ合理的な開発思想とトヨタの堅実なモノ造り精神が息づいています。国内ではごく限られた熱心なファンがその魅力を発信し続けており、日本唯一ともいわれるファンカーゴ専門店であるGood Loopには全国から問い合わせが来るほどです。かつてのヒット車が時を経て「隠れた名車」となり、海を越えて愛される——トヨタ・ファンカーゴの物語は、今もなお世界各地で走り続けています。