スズキGSX-R1100:公道最強を目指した伝説のビッグバイク

スズキGSX-R1100は、1980年代後半から1990年代にかけて登場したスズキのフラッグシップ・スポーツバイクです。レーサーレプリカ譲りの軽量アルミフレームに独自の油冷エンジンを搭載し、当時「公道最強」と謳われた加速性能と高速性能を実現しました。現在ではネオクラシックブームの中で往年の名車として注目を集めており、中古市場でも高い人気を維持しています。本記事では、GSX-R1100の開発背景とモデルヒストリー、エンジンスペックや特徴的な技術、当時のライバルとの比較、現代における評価や中古市場動向、そしてメンテナンス事情や部品供給の現状までを、専門的な視点を交えつつ親しみやすいトーンで解説します。

開発の背景とモデルヒストリー

初代GSX-R1100(1986年型)。750のレーサーレプリカコンセプトを受け継ぎ、1100ccまで排気量を拡大したスズキのフラッグシップモデル。コンピュータ解析で設計されたアルミフレームは従来モデル比で剛性を高めつつ約25%の軽量化を実現し、革新的な油冷エンジンと相まって乾燥重量197kg・最高出力130PSという当時画期的な高いパワーウェイトレシオ1.51を達成しました。

初期型(1986〜1988年)油冷レーサーレプリカの衝撃

GSX-R1100はまず1986年に欧州や北米向け輸出車としてデビューしました。前年に発売された750cc版GSX-R750の「公道を走れるレーサー」コンセプトをそのまま受け継ぎ、排気量を1100cc級まで拡大した兄貴分です。搭載されたエンジンは1052cc空冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブですが、通常の空冷エンジンに大容量オイルクーラーと強制オイル循環を組み合わせた油冷方式(SACS)を採用した点が最大の特徴でした。シリンダーヘッドに毎分20リットルものオイルを噴射して冷却し、回収した熱を大型オイルクーラーで放熱するという仕組みにより、高出力と軽量化を両立しています。最高出力130PSを発揮しつつエンジン自体も従来の空冷より22%軽量化され、結果として乾燥重量197kgという驚異的な軽さを実現しました。当時のリッタークラスバイクと比べても20〜30kgも軽く、圧倒的なパワーと軽量さでライダーを魅了したのです。

車体面でも、アルミ製フレームとフルカウルに丸目2灯ヘッドライトというスタイルなど、GSX-R750譲りのレーサーレプリカ然とした構成でした。アルミフレームはエンジンを抱え込むダブルクレードル構造を採用し、当時の大型車では異例の軽量剛性設計でした。この初期型は、レース直系のハイパワーながらハンドル位置は750より高めに設定されるなど公道での扱いやすさも考慮されており、ツーリングにも使いやすいバランスの良いマシンでした。その完成度の高さから日本国内でも逆輸入という形で人気を博し、多くの台数が販売されたと言われます。

1988年(J型)には中空3本スポークが装備されタイヤ幅が拡大、オイルクーラーも強化されました。重量は2kg増加。

第二世代(1989〜1992年)パワーアップと安定性の追求

1989年(平成元年)モデルのGSX-R1100(型式:GV73A)はフルモデルチェンジを受けた世代です。前年にモデルチェンジした’88年型GSX-R750のスタイルを踏襲しつつ大型化しています。エンジンは排気量が1127ccに拡大されました。これにより最高出力は143ps/9500rpm 11.9kg·m/7250rpmとパワーアップし、オイルクーラーも湾曲タイプに変更して冷却効率を向上させています。マフラーは重厚なステンレス製で、エキマニは4into2to1とサイレンサーは2本出しとされました。車体は新設計のフレームで剛性を大幅に高め、前120/70ZR17・後160/60ZR17のラジアルタイヤを採用するなど、大幅な戦闘力アップが図られています。これらの強化の結果として乾燥重量は210kgとなりましたが、依然として同クラス他車と比べれば軽量な部類でした。
ただし、この1989年型(通称“K型”)は発売当初、雑誌テストで指摘されたハンドリングの不安定さが話題となりました。実際、’89年のマン島TTレースではGSX-R1100Kに乗った有名ライダーが相次いでクラッシュし、大排気量マシンのレース参加が一時禁止される一因となったほどでした。
この反省を踏まえ、1990年型(L型)ではスイングアームを40mm延長しホイールベースが25mm長くなりました。同時にタイヤ幅が前130mm・後180mmに拡大、倒立フォークが装備され、重量は219kgとなりツアラー傾向がより強まりました。回転計の始点が前年までの3000rpmから0rpmに改められたのも象徴的です。

1991年型(M型)ではキャブレター径の大型化やカウルデザイン変更(ヘッドライトをガラスカバー内に配置)による空力改善が行われましたが、重量は226kgに。エンジンはキャブレターをBST40SSに大径化、バルブ駆動を1カム1ロッカーアーム方式に変更し、バルブ慣性質量を約5%軽減するなどして145ps/10000rpmと向上、トルクは11.6kg·m/7500rpmと低下し高回転型に。1992年型(N型)はトランスミッションのシャフト支持方法と潤滑経路が改良されるなど、最終型まで改良が実施されました。

総じて第二世代(1989〜1992年)のGSX-R1100は、排気量アップに伴う圧倒的なパワーと、高速域での安定したハンドリングを備えたマシンへと発展しました。一方で初期型にあった軽快さやレーシーなフィーリングはやや薄れ、時代の要請に合わせ「メガスポーツ」「メガツアラー」的な性格が強まった世代とも言えます。この路線変更は、後述するライバルとの競合や市場トレンドにも大きく影響されたものでした。

第三世代(1993〜1998年)水冷化とスーパースポーツの成熟

1993年(平成5年)、GSX-R1100は二度目のフルモデルチェンジにより水冷エンジン化されます。型式名は「GSX-R1100W(WP型)」とされ、エンジンは排気量こそ1074ccへ若干ダウンサイジングされたものの、冷却方式を水冷に改めることで出力向上と信頼性アップを両立しました。新エンジンは4スト水冷DOHC4バルブで、ボア×ストロークは75.5×60mmとロングストローク寄りの設定です。水冷化により高回転域から低中速まで鋭い加速を求めた結果、最高出力は先代比で10PS増の155PSに達し、実測でも後輪出力で130PS超えを記録する強力なエンジンとなりました。冷却系は大型ラジエーターに加え、引き続きオイルクーラーやオイルジェット式のピストン冷却機構も併用する万全の体制で、耐久性と安定性を確保しています。

車体も新設計の5角断面断面のツインスパーフレーム(鍛造部品を多用)を採用し、従来モデル比で大幅に剛性を向上させています。スイングアームは片側(右側)を湾曲させたバナナ型スイングアームとし、マフラー2本出しはこの代から再び1本出しに戻されました。フロントフォークは倒立式で、ブレーキも対向6ポットキャリパーに強化されるなど足回りも充実しています。その結果、車重は乾燥で231kgに達しましたが、外観は先代から大きく変わらず一見しただけでは水冷化したと分からないほど従来のイメージを踏襲しています。

水冷化後のGSX-R1100は、基本設計を踏襲しつつ1994年型(WR)ではカラー変更のみ、1995年型(WS)で足回りと細部を改良するマイナーチェンジが行われました。’95年型ではフロントフォーク径を41mmから43mmへ太径化し(剛性アップ)、スイングアームも補強付きのレーサースタイルに変更、点火系とカムプロフィールの見直しで中低速トルクの厚みを取り戻しています。またフロントカウル開口部を絞って正面投影面積を縮小し、二眼ヘッドライトを一体型のデュアルライトユニットに変更するなど、空力とデザイン面でも手が加えられました。これら改良により’95年型以降は乾燥重量が221kgまで軽減され、燃費の向上やポジション調整による長距離での快適性アップも図られています。1996年(WT)1997年(WV)1998年(WW)モデルは基本的にカラーリングの変更に留まり、大きな仕様変更はありませんでした。1998年がGSX-R1100最終型となり、長年続いた「GSX-Rの1100ccモデル」はこの年をもって一旦終了します。

なお、GSX-R1100の事実上の後継としては2つのモデルが挙げられます。ひとつは“ハヤブサ”ことGSX1300R隼です。隼は1999年に登場し、1298ccエンジンで最高出力175PS・実測最高速300km/h超という当時世界最速のスペックを誇り、GSX-R1100に代わるスズキの新たなフラッグシップとなりました。もうひとつはGSX-R1000で、2001年に750ベースの車体に1000cc級エンジンを搭載した純粋なスーパースポーツとしてデビューし、以降GSX-Rシリーズの最高峰は1000ccモデルが担っています。GSX-R1100の魂はこれら後継マシンに受け継がれ、現在の最新モデルに至るまで脈々と進化を続けています。

エンジンスペックと特徴的なテクノロジー

GSX-R1100が他のマシンと一線を画した最大のポイントは、そのエンジン技術にありました。なかでも初期型から第二世代(〜1992年)まで用いられた油冷エンジンは、スズキ独自の先進技術として有名です。これはSACS(Suzuki Advanced Cooling System)と呼ばれる方式で、基本構造は空冷エンジンでありながらエンジンオイルを冷却媒体として積極的に利用したものです。具体的には、エンジン内部(シリンダーヘッドなど)にオイルを噴射して熱を吸収させ、大型オイルクーラーで冷やしたオイルを循環させることで冷却効果を高めています。水冷エンジンに比べ構造がシンプルでポンプ類も不要なため軽量かつ出力損失が少なく、GSX-R1100の高出力・軽量化に大きく寄与しました。事実、スズキはGSX-R1100開発当時すでに水冷エンジンを作れる技術を持ちながらも、車体重量を徹底的に抑えるため敢えて油冷を選択した経緯があります。この判断が功を奏し、同時期のライバルを凌ぐパワーウェイトレシオを手に入れたのです。

エンジン内部の燃焼技術としては、スズキ伝統のTSCC(Twin Swirl Combustion Chamber)式燃焼室も搭載されていました。TSCCはシリンダーヘッド内の燃焼室形状を工夫し、混合気に2つの渦流(スワール)を発生させて効率よく燃焼させる設計思想です。このツイン・スワール燃焼室により燃焼効率を高め、出力向上と燃費改善に役立てています。GSX-R1100のDOHC4バルブヘッドにもこの技術が盛り込まれ、高回転高出力とスムーズなスロットルレスポンスに貢献しました。またピストン上部には冷却用のオイル噴射(オイルジェット)も行われ、ハードな走行でも信頼性を確保しています。

キャブレターは年代によって変更がありますが、油冷最終期には大口径のBST40キャブレター(口径40mm、北米仕様は36mm)が採用されました。これにより吸気効率を高め、フルパワー仕様で145馬力前後(1991年M型の欧州仕様フルパワー値)を発生するに至っています。一方で1993年以降の水冷モデルでは燃料供給はキャブレターのままながら更なる高出力化に対応しました。ラムエア加圧機構(SRAD)の導入や電子制御の進化は後継の隼やGSX-R1000で本格化しますが、GSX-R1100はキャブ時代の最終世代としてチューニングの余地も大きく、多くのユーザーが社外マフラーやキャブ交換でさらなる性能アップを楽しみました。

ライディング性能に関しても、GSX-R1100は年代によってキャラクターが変化しました。初期型(86〜88年)は非常に軽快なハンドリングが持ち味で、日本の峠道でもヒラヒラと切り返せる楽しさがありました。アルミダブルクレードルフレーム+18インチホイールという構成は旧来の空冷大型車(カタナやZ系)にも通じる乗り味で、レーサーレプリカでありながらリラックスして操れるフィーリングが評価されています。「軽くパワフルでヒラヒラ走りたい」という当時のライダーの期待に応えるバランスの良さであり、油冷初期型は今乗っても十分に楽しいバイクだと言われます。

第二世代(89〜92年)は前述の通り高速安定性が増し、大柄で直進安定志向の性格になりました。雑誌には「コーナーでは少し手強いが高速域では無類の安定感」と評されたこともあり、当時流行した300km/hチャレンジに近い世界で真価を発揮するマシンでした。実際1990年代前半、GSX-R1100はライバルのZZ-R1100と並んでメガスポーツ/メガツアラーの雄として人気を二分した存在です。ただし低速での取り回しやコーナリングの軽やかさは初期型に軍配が上がるため、街乗りや峠遊びを重視するユーザーには「初期型の方が楽しい」という声も根強くありました。これはフレーム剛性強化の代償であり、極限域では歪みが出にくくなった一方、重量増で俊敏さが犠牲になったとも言えます。つまり、初期型=ライトウェイトスポーツ、第二世代=ハイパワースポーツツアラーという棲み分けが生まれていたのです。

第三世代(水冷化後)は、さらに成熟したモンスタースポーツツアラーとして完成の域に達しました。155PSもの大出力と230kg級の車重によって、まさに「怪物級」の加速と安定感を備えています。イギリスのバイク誌による1995年型GSX-R1100Wのテストでは、最高速285km/hに達したとの報告もあり、その高速性能は既にレースというより長距離高速ツーリングで威力を発揮する領域でした。実際、’95年以降のモデルは燃費も良好(巡航でリッター16km以上)で足つきやポジションも改善され、「扱いやすくバランスの取れた怪速バイク」との評価を受けています。これはもはや初代GSX-R750のようなレーサー直系マシンというより、スズキが培った技術で熟成されたスーパースポーツツアラーと言えるでしょう。

当時のライバル車種との比較とポジション

GSX-R1100が登場した1980年代後半から90年代にかけて、各メーカーも大型スポーツバイクの開発にしのぎを削っていました。ホンダ、ヤマハ、カワサキそれぞれに個性的なリッタークラス(またはそれ以上)のマシンを投入し、GSX-R1100はその中で独自のポジションを築きます。

まずヤマハからは、1987年に登場したFZR1000が強力なライバルでした。FZR1000は5バルブヘッド採用の水冷1002ccエンジンを搭載し、後年EXUPバルブによるトルク強化も行われたハイスペック車です。重量はGSX-R1100より重めでしたが、高いピークパワーとヤマハらしいハンドリングで人気を博しました。またホンダは当初CBR1000F(通称「Hurricane」)を投入していましたが、こちらはどちらかというとカウル付きのスポーツツアラー色が強く、純粋なレーサーレプリカとは異なるキャラクターでした。しかし1992年にホンダが衝撃的な軽量マシンCBR900RR(Fireblade)を発売すると、リッタークラスの常識が覆ります。900ccながらわずか乾燥185kg程度の超軽量スーパースポーツであったFirebladeの登場は、当時の大型スポーツバイク市場に大きな影響を与えました。各誌がGSX-R1100をはじめ既存の1000cc超マシンと比較し、「もはやパワーよりパワーウェイトレシオこそ正義」と評価したのです。この流れにより、GSX-R1100も含め従来型のビッグバイクは相対的に「大柄で重い」という批評を受けるようになりました。スズキはGSX-R1100を年々改良しスポーツツアラーとして熟成させましたが、ピュアスポーツの世界では排気量より軽さ・俊敏さが重視される時代へシフトしていったのです。

一方、カワサキの動きも見逃せません。1980年代半ばには空前のヒット作GPZ900R(ニンジャ)が登場し、「世界最速市販車」の称号を手にしていました。GSX-R1100は排気量こそ上回るものの、ニンジャ900の水冷直4エンジンも高性能で、両車はしばしば比較の対象となりました。さらにカワサキは1988年にGPZ1000RX、続いてZX-10(1989年)、そして1990年にはZZ-R1100(北米名ZX-11)を投入します。ZZ-R1100は最高出力147PS・最高速300km/h級とも噂される怪物マシンで、トップスピード争いにおいてGSX-R1100の強力なライバルとなりました。事実、1990年代のメガツアラー人気はカワサキZZ-R1100とGSX-R1100で二分していたとも言われます。ZZ-R1100は高速直線番長的な性格が強く、対するGSX-R1100はコーナリング性能も備えたオールラウンダーという違いはありましたが、両者とも「公道最速」を争う図式がメディアで盛り上がりました。

また90年代後半になると、ホンダCBR1100XXスーパーブラックバード(1996年)やヤマハYZF1000Rサンダーエース(1996年)など、新たなライバルも登場します。しかしGSX-R1100はそれ以前に生産終了となったため、直接の競合は1995年頃までと考えて良いでしょう。総じてGSX-R1100のポジションは、「レースの血統を持ちながらツアラーとしての要素も併せ持つユニークな大型スポーツ」でした。レーシーな外観に反しロングツーリングも難なくこなす懐の深さは他車にない魅力であり、スズキ党のみならず多くのライダーから愛された理由と言えます。

現代における人気・評価 ~ネオクラシックとしての価値~

生産終了から四半世紀以上が経過した現在でも、GSX-R1100はネオクラシック・バイクの筆頭格として根強い人気を誇ります。とりわけ油冷エンジン搭載の初期モデル(1980年代のGU74A型〜GV73A型)はコレクターズアイテム的な扱いも受けており、「油冷機構の傑作」として高い評価が確立されています。実際、初期油冷モデルは中古市場でも今なお高値安定の傾向が見られ、状態の良いオリジナル車両にはプレミアが付くこともあります。またスズキの往年の名車を語る上でGSX-R1100は欠かせない存在であり、雑誌やネット媒体でも度々特集が組まれるなど、その歴史的価値が再認識されています。「GSX-R1100が育ててくれた」という熱烈なスズキファンも多く、例えば老舗チューナーのヨシムラは「油冷GSX-Rはヨシムラファンを育ててくれた大事な存在」と語っています。

ネオクラシックとしての魅力は、単に懐古的なものに留まりません。現代の視点で見ても通用する性能を備えている点が、GSX-R1100の凄みです。前述のように初期型は軽量かつバランスが良く、適切な整備と現代パーツの導入次第では今の峠道でも十分に楽しめる走行性能を発揮します。実際にエンジンや足回りを最新スペックにアップデートするレストモッドも盛んで、キャブレターを現代製品に交換したりサスペンションやホイールを流用したりすることで「古いけど速い」マシンに仕立てるユーザーもいます。一方、水冷最終世代のモデルは純正状態でもスペック的に遜色ないため、こちらは当時を偲ぶスポーツツアラーとして人気です。特に1995年以降の改良型は扱いやすさもあり、「往年のリッターバイクを普段使いできる」として評価されています。このように、GSX-R1100はヴィンテージの味わい実用性能を高次元で両立した希有なモデルであり、ネオクラシックバイク愛好家にとって魅力的な一台と言えるでしょう。

また、メーカーや部品メーカーからもGSX-R1100への再評価が進んでいます。2024年には前述のヨシムラが中心となり、油冷GSX-R用の純正互換パーツ復刻プロジェクトが発表されました。これは「純正部品価格の高騰や入手困難で泣く泣く車両を手放すオーナーがいる」という状況を受け、「ヨシムラが恩返しする好機」と捉えて立ち上がったものです。まずは初期型(750なら’85〜’87年式、1100なら’86〜’88年式)対応パーツから着手される予定で、スズキ本社とも連携し「可能な限り協力する」との心強いコメントも得ているとのこと。このようにメーカー直系のサポートが動き出した点からも、GSX-R1100が単なる古いバイクではなく文化的価値を持つ名車として認識されていることが伺えます。

総じて、GSX-R1100の現代での評価は「稀代の名機を持つ伝説のスポーツバイク」というものです。新車当時を知らない若い世代からも「一度は乗ってみたい憧れの旧車」として名前が挙がる存在であり、その姿やメカニズムには唯一無二の輝きがあります。ネオクラシックブームの追い風も受けつつ、これからもGSX-R1100は多くのライダーを惹きつけ続けるでしょう。

中古市場での流通状況と購入時のポイント

中古市場におけるGSX-R1100は、年代や状態によって価格帯に幅があるものの、常に一定の流通量が確保されています。専門の中古情報サイトを見ると、売出し価格はおおむね60万円台〜200万円超といった広いレンジに分布しています。比較的手頃な車両は100万円未満でも見つかりますが、走行距離が多かったりカスタムが施されているケースが多いようです。一方、フルノーマルで程度良好な初期型や、限定色・希少カラーなどの車両になると200万円近い価格が付く例もあります。特に「油冷最終モデル」1992年式や、「初期型」1986〜87年式はコレクター需要もあり人気が高い傾向です。前者は油冷エンジンの完成形として、後者はオリジナルの歴史的価値として評価されているためです。

購入時の注意点として、以下にいくつかポイントを挙げます。

  • 車体やフレームのコンディション: 古いアルミフレーム車の宿命として、過去の転倒歴や経年劣化による歪み・クラックがないか要チェックです。特に初期型はフレーム剛性が低めで無理をすると歪みやすいとも言われます。ステム回りやスイングアームピボット部を目視・計測し、真っ直ぐ走るかどうか確認しましょう。
  • エンジン・オイル管理の履歴: 油冷エンジンはオイル管理が命です。定期的なオイル交換がなされていないと冷却性能低下や内部摩耗に直結します。購入前にオイル交換履歴やエンジン内部の異音・白煙の有無を確認し、必要に応じてコンプレッション測定なども実施すると安心です。
  • 電装系・配線の健全性: 30年以上前のバイクゆえ、配線の劣化やコネクターの腐食、レギュレーター不良など電装トラブルも起こりがちです。当時のスズキ車は充電不良が持病と言われたこともあります。バッテリー電圧や充電系統のチェック、各ランプやスイッチ動作確認を怠らないようにします。
  • 消耗部品と足回りの状態: ブレーキやサスペンションは消耗・ヘタリ具合を確認しましょう。とくにリアサスペンションのリンク周りはレストア時に再メッキや新品交換が推奨されるポイントです。フォークのオイル漏れ、ブレーキディスクの磨耗、ホース類の亀裂なども入念にチェックします。
  • オリジナル度とカスタム: 購入目的によって留意すべき点ですが、将来的な価値や信頼性を重視するなら極力ノーマルに近い個体が望ましいです。一方、実用重視の場合は既に足回り強化やFCRキャブ装着などチューニング済みの車両を選ぶのも手です。ただし改造の内容によっては車検非対応やセッティング不良のリスクもあるため、内容を十分確認しましょう。現在では貴重な当時物のパーツが装着されている個体はチャンスです。特にホイールやステップといった車体の部品は入手が困難です。

以上のように、GSX-R1100を中古で購入する際は他の旧車以上にコンディション重視で選ぶことが大切です。前オーナーの整備記録やショップの評価なども参考に、「なるべく状態の良い車両を入手して、整備やチューニングに予算を充てる」のが理想とされています。特に走行距離が嵩んだ個体が多いため、購入後に想定以上のレストア作業が必要になるケースもあります。予め整備費用の余裕を見ておくとともに、購入時には専門ショップに車両の事前チェックを依頼するのも賢明でしょう。

メンテナンスと部品供給の現状

GSX-R1100クラスの絶版車ともなると、維持していく上で無視できないのがメンテナンス性とパーツ供給です。他の旧車同様、経年劣化した部品の交換やオーバーホール作業は避けて通れませんが、幸いGSX-R1100はエンジンが堅牢で耐久性が高く「壊れにくい」部類のバイクだとされています。適切にオイル管理をして過負荷なチューニングをしなければ致命的な故障は多くないという声もあり、基本に忠実な整備を続ければ長寿を全うできるでしょう。ただしキャブレターの同調や古い点火系のメンテなど、現代のFI車に比べ手間のかかる部分もあるため、旧車整備のノウハウを持ったショップに相談しながら維持するのがおすすめです。

部品供給については、年々状況が厳しくなっているのが実情です。発売から数十年が経過し、スズキ純正部品の多くがすでに生産中止(廃盤)となっています。とりわけ外装カウル類や電装部品、細かなゴム・樹脂パーツなどは入手困難で、オークションや海外サイトで中古・デッドストック品を探すケースも珍しくありません。エンジン内部パーツも一部は共通エンジン(後継の油冷Bandit1200系統など)から流用可能なものがありますが、それらも合わせて純正新品となると在庫僅少です。キャブレターインシュレーターはほとんどが入手不可能です。ユーザーからは「パーツが高い上に手に入らない時代なので、ブレーキやサスは社外品に変更してレストアを進める」といった声も聞かれます。実際、ブレーキマスターやキャリパーを現行品に交換したり、サスペンションをオーリンズ製にアップグレードするなどで部品問題を解消する動きも多いようです。

そうした中、前述のヨシムラによる油冷GSX-Rパーツ復刻プロジェクトは大きな希望と言えます。特に初期型(1986〜88年)に対応するパーツから順次リリース予定とされ、今後オーナーの強い味方になるでしょう。また他にも、油冷を得意とするM-techというショップが電装やケーブルなどのリプレイス部品を独自製造するなど、アフターマーケットでの支援も活発化しています。GSX-R1100用の社外パーツ・消耗品は多くあり、タイヤやチェーンはもちろん、マフラーや外装カウルのリプロ品、エンジン強化パーツまで多彩に揃っています。コミュニティも充実しており、SNSやブログで情報交換するオーナーも多いため、困ったときはそういったネットワークを活用するのも良いでしょう。

日常のメンテナンス面では、オイル交換やチェーン調整といった基本は言うまでもなく、定期的なエンジン内部の点検も視野に入れておきたいところです。特に油冷エンジン搭載車はオイルラインの詰まりや劣化に注意が必要で、長期間動かしていなかった個体を手に入れた場合はオイルクーラーや配管内のフラッシングを行うと安心です。またキャブレターも長年の使用で摩耗やスラッジ蓄積がありますので、オーバーホールキットを用いたリフレッシュが推奨されます。幸い、キャブのOリングやフロートバルブ等も前述のように社外から供給が始まっています。足回りに関しては、ダンパーのヘタリを感じたら早めにリビルド(再生)または新品交換を検討しましょう。リアサスは分解整備不可の場合もあるため、社外新品に換装するユーザーも多いようです。

総括すると、GSX-R1100の維持にはそれなりの手間とコストが掛かりますが、それを補って余りある所有する喜び走らせる楽しさが得られるバイクです。メーカーや有志のサポートも増えつつある今、手間暇を惜しまず可愛がれば末永く付き合えるでしょう。往年の“公道最強マシン”を自らの手でメンテナンスしながら乗り続けることは、他では味わえない格別な体験となるに違いありません。GSX-R1100はこれからも多くのバイクファンによってメンテナンスされ、その雄姿を道路にとどめていくことでしょう。

年度別主要諸元

年式19861989199119931995
機種記号GSX-R1100GGSX-R1100KGSX-R1100MGSX-R1100WPGSX-R1100WS
型式GU74AGV73AGU75A
総排気量1052.5cc1127.7cc1074.5cc
ボア×ストローク76.0×58.0mm78.0×59.0mm75.5×60.0mm
最高出力130ps/9500rpm143ps/9500rpm145ps/10000rpm155ps/10000rpm
最大トルク10.5kg-m/8500rpm11.9kg-m/7250rpm11.6kg-m/7500rpm11.7kg-m/9000rpm
圧縮比9.7:110.0:111.2:1
気化器BST34SSBST36SSBST40SSBST40
全長/全幅/全高2115/745/1215mm2050/760/1135mm2085/755/1150mm2130/755/1190mm
軸間距離/シート高1460/810mm1440/815mm1465/810mm1485/815mm
キャスター/トレール26.5°/116mm24.8°/99mm24°/92mm24.8°/99mm24.8°/100mm
乾燥重量197kg210kg226kg231kg221kg
燃料タンク/オイル容量19ℓ/4.7ℓ21ℓ/5.1ℓ22ℓ/5.1ℓ21ℓ/3.9ℓ
ホイールF/R2.75×18/4.00×183.50×17/4.50×173.50×17/5.50×17
タイヤサイズF:110/80VR18F:120/70ZR17
R:150/70VR18R:160/60ZR17R:180/55ZR17
フロントフォークφ41mm正立+NEASφ43mm正立φ43mm倒立
フロントブレーキ対向式4ピストン+対向式異径4ピストン+対向式6ピストン+
φ310mmディスクφ310mmディスクφ310mmディスク
リアブレーキ対向式2ピストン+対向式2ピストン+
φ220mmディスクφ240mmディスク

(参考: 750)

年式19851986198819891992
機種記号GSX750RGSX750RRGSX-R750JGSX-R750RKGSX-R750WN
型式GR71FGR71GGR77CGR79CGR7BC
総排気量749.7cc748.3cc749.7cc
ボア×ストローク70.0×48.7mm73.0×44.7mm70.0×48.7mm
最高出力77ps/9500rpm
(輸出仕様)(100ps/11000rpm)N.A.(112ps/11000rpm)(120ps/11000rpm)(118ps/11500rpm)
最大トルク6.4kg-m/8000rpm6.8kg-m/7000rpm
(輸出仕様)(6.8kg-m/10000rpm)N.A.N.A.(8.3kg-m/9500rpm)(8.0kg-m/9500rpm)
圧縮比11.0:110.9:111.8:1
気化器VM29BST36BST40BST38SS
全長/全幅/全高2110/745/1205mm2120/745/1215mm2055/730/1100mm2070/730/1110mm2070/730/1135mm
軸間距離/シート高1430/765mm1455/770mm1400/785mm1405/785mm1440/780mm
キャスター/トレール26°/107mm24.8°/99mm24.8°/102mm25.5°/98mm
乾燥重量/装備重量179kg/200kg181kg/208kg195kg/221kg187kg/N.A.208kg/N.A.
燃料タンク/オイル容量19ℓ/5.0ℓ19ℓ/4.8ℓ21ℓ/5.8ℓ19ℓ/5.2ℓ20ℓ/3.9ℓ
ホイールF/R2.50-18/3.50-182.75-18/4.00-183.50-17/4.50-173.50-17/5.50-17
タイヤサイズF:110/80-18F:110/80R18F:120/70R17F:130/60R17F:120/70ZR17
R:140/70-18R:150/70R18R:160/60R17R:170/60R17R:170/60ZR17
フロントフォークφ41mm正立+PDFφ41mm正立+NEASφ43mm正立φ41mm倒立
フロントブレーキ対向式4ピストン+対向式4ピストン+対向式異径4ピストン+
φ300mmディスクφ310mmディスクφ310mmディスク
リアブレーキ対向式2ピストン+対向式2ピストン+
φ220mmディスクφ240mmディスク

当店では研究開発用車両としてGSX-R1100を所有しており、各モデルの詳細スペックやチューニングについてご相談いただけます。最新の中古相場についても、お気軽に当店までお問い合わせください。お客様のご趣向・ご予算に沿った一台をご提案いたします。